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消費者法ニュース100号266頁 寳珠宗寳珠会(旧泰道)の進出疑惑と名誉毀損訴訟

消費者法ニュース100号266頁

 宗教団体の進出や施設建設には地域住民の反対運動がよくしょうじるところ、反対運動に対する名誉毀損訴訟も生じるところです。

寳珠宗寳珠会(旧泰道)の進出疑惑と名誉毀損訴訟

 

1 初めに

 熊本県西原村は阿蘇外輪山を望む熊本市近郊の自然豊かな田舎町である。現在、西原村では、宗教法人寳珠宗寳珠会(以下「宝珠会」という。)が同村に秘密裏に進出を企てたのではないかという疑惑が持ち上がり、地元住民による大がかりな反対運動が起こっている。

 宗教団体が施設建設などで地元住民の大きな反対に遭うことは珍しくない。最も典型的な例は、同じ熊本県に進出したオウム真理教と旧波野村(現阿蘇市)の住民反対運動である。オウム信者と地元住民との対立は村の穏やかな生活を一変させ、旧波野村はオウム真理教に対して撤退を条件に巨額の和解金を支払うこととなったのは世間を賑わせた。宗教団体は、その宗教的規範がときに社会の規範とぶつかることがあり、それが現実の社会に行動として現れ、紛争へと発展することは、実際に上記オウム真理教の波野村進出のように証明もされていると言えよう。それ故に、地元住民は宗教団体の進出に不安を抱き、反対運動が展開され、この住民の反応や反対運動に対して、進出する宗教団体から名誉毀損の訴えが提起されることも良くある事例であろう。

 今回の宝珠会は、過去に集団訴訟を提起され、その活動等について違法と認定されており、しかもそのような団体が正体を隠して進出してきたと判断される場合であり、住民が感じる不安と反発は至極当然なものと思われる。今回の名誉毀損訴訟は、このような住民の反対運動に対し圧力をかけて萎縮させる目的で名誉毀損訴訟が提起されたと考えられる事例である。

 以下、宗教問題の一つの側面を表す事例として詳しく紹介する。

 

2 宝珠会(旧泰道)

 宝珠会は、前身を「健康を守る会泰道」(以下「泰道」という。)とする宗教法人であり、昭和61年に開俊久(以下「開」という。)を会長として創設された。提唱する「手かざし」などにより「病気が治る。痛みがとれる。幸せになれる。」などと称し、勧誘を行い、会員から多額の金銭を集めたことが社会問題となり、損害賠償請求訴訟においてハンドパワーによって病気が治るという証明はなく勧誘等が違法であると認定された(これらの判決は最高裁で確定している)。任意団体であった泰道は、勢力を拡大する過程で宗教法人である宝珠会を傘下に収め、その他複数の法人とともに活動を行った。平成9年に泰道が解散した後は、宝珠会が後継団体であると一連の裁判で認定され、宝珠会とともに泰道も損害賠償責任を負うこととなった。

 因みに、泰道はその創設から暫くの間は「泰道は宗教とは関係がない。生命の作用は学問である」と宗教性を積極的に否定していた。平成4年10月に中山身語正宗東教会という宗教団体を傘下に収め「寳珠宗寳珠会」と改名して、この宝珠会が泰道の活動を引き継いだため、「宗教性を否定していた宗教団体」という意味で宗教法人格の付与に疑問がある。

 泰道ないし宝珠会が違法と認定された裁判は以下の通りである。

 ①長崎地方裁判所 平成13年9月26日

 ②佐賀地方裁判所 平成14年2月15日

 ③福岡地方裁判所 平成14年9月25日

 ④福岡高等裁判所 平成15年3月27日(②の控訴審)

 ⑤福岡高等裁判所 平成15年10月21日(①の控訴審)

 ⑥福岡高等裁判所 平成15年10月31日(③の控訴審)

 判決内容は、「泰道は金員獲得の目的をもって社会的に相当でない方法により会員を勧誘し、その結果、入会者から多額の金員を獲得したものであり、泰道のこのような会員の勧誘から近因獲得に至る一連のシステムは社会的相当性を著しく逸脱するものであって違法というべきである」と糾弾し、いずれの判決も泰道及び宝珠会の責任を全面的に認めている。

 なお、本年3月28日福岡地方裁判所で不法行為責任が認められたアースハートという手かざし団体は、この泰道の幹部による分派活動であり、同様の手口により全国各地に被害を発生させている。

 

3 宝珠会の進出疑惑の経緯

(1)土地の取得

   平成23年10月頃から,西原村の村議会議長であった泉田洋一議員(その後議員も辞職、以下「泉田議員」という。)の仲介・斡旋により,灰床地区の複数の土地を泰道の代表者であり宝珠会の教祖的人物である開が人知れずに取得した。

(2)土地売却申し入れ

   平成25年1月10日,NPO法人自然を守る会の理事長である山崎三男(泰道の元副理事長、以下「山崎」という。)と理事である泉田議員が,「リゾートホテル」「サッカーなどのスポーツ施設」「身体と心を癒すセラピーを中心とした医療施設」「山の守護神を祀るためのほこらの建立」などを整備し,「日本一の自然公園」建設構想を実現するためと称し,西原村に対し、その所有する河原地区大野原野約350haの売却を申し入れた(前記開が買収した土地はこの広大な土地の入り口にあたる)。

(3)村民の態度

   村民は、もともと開発計画に否定的であったが、NPO法人自然を守る会の関係者に違法判決を受けた泰道(宝珠会)の関係者が多く関与していることが判明すると、これが宝珠会による秘密裏の進出ではないかと強い不安を訴え、反対運動が強まった。

   平成25年9月2日,約3200名の反対署名を添えた「河原灰床の山林・原野への宝珠宗宝珠会の印刷工場などの進出と乱開発を阻止することを求める請願書」が村議会に提出され、その後西原村は正式にNPO法人自然を守る会の申し出を断った。

   平成26年2月16日には、約500人以上の村民が集まった住民集会が開かれ、「西原村を守る会」が結成され、今後もNPO法人自然を守る会の開発に反対をすることが確認された。

(4)名誉毀損訴訟の提起

   平成25年10月4日、泉田議員は、泉田議員が「カルト教団を西原村に手引きした」旨の西原村の村政について報告する「かわら版」(ミニコミ誌)の記載が、泉田議員の名誉を毀損するとして、「かわら版」を発行する地元住民に対して、損害賠償請求を提起した(熊本簡易裁判所平成25年(ワ)第9461号、後に熊本地方裁判所(ワ)1162号)。

   平成25年11月20日、宝珠会は、同じ住民に対して、「かわら版」の記事において宝珠会が違法な活動を継続しているとの記載について「原告は現在、当該判決を受けてその活動を全面的に見直した」から、事実に反するとして、名誉毀損訴訟を提起した(熊本地方裁判所平成25年(ワ)第1050号)。

(5)宝珠会の対応

   NPO法人自然を守る会の理事長である山崎は、村議会において、本件開発計画が開の意思に基づいたものであることを認めながらも、一切宝珠会とは関係がないと主張している。また、後に詳述するが宝珠会は今回の開発計画に関しては、一切関知するところではないとの態度をとっている。

   NPO法人自然を守る会が、河原地区の大野原野の売却申し出を西原村に正式に断られた後も、開は現在も灰床地区の土地取得を続けている。

 

4 名誉毀損訴訟の争点

 住民に対する名誉毀損訴訟は、(1)泉田議員に対する名誉毀損、(2)宝珠会に対する名誉毀損訴訟が併合され同時に審理されている。被告は、判例理論に基づき、(1)泉田議員の訴えに対しては、意見ないし論評の前提となる事実が真実であることまたはそう信ずるにつき相当の理由があったことを抗弁として主張し、(2)宝珠会の訴えに対しては、摘示された事実が真実であることまたは真実であると信ずることにつき相当の理由があったことを抗弁として主張している。

 争点は、(1)泉田議員の事件においては、①NPO法人自然を守る会の開発は宝珠会の進出と評価できるか、②泉田議員が宝珠会を「手引き」したと評価できるか、(2)宝珠会の事件では、宝珠会が違法な活動を現在も継続しているか、という点に絞られている。

(1)泉田議員事件

  ①宝珠会の進出であると判断されること

   NPO法人自然を守る会の開発が,宝珠会の進出と合理的に判断できる根拠は以下の通りである。

ⅰ NPO法人自然を守る会には活動実態も実績も資金もない。

ⅱ 日本一の自然公園建設構想が,売却申し入れの対象土地だけでも350ha(東京ドーム74個分)もの広大さで,規模においても予想される費用においても,実態・実績のないNPO法人や個人が開発主体となるとは思えない。

ⅲ 山崎は,平成25年1月10日,村への大野原野売却申し入れの際,金20億円超の開名義の残高証明書を示したが,個人の財産から20億円もの開発費用を負担するとは考えられない。

ⅳ 平成24年6月12日付けで,開は,NPO法人自然を守る会名目での伐採(間伐)申請している。この時点で,NPO法人自然を守る会は存在しなかったし,そもそもNPO法人設立の前提である県への認証手続きすら行っていなかったため,同法人が開ないし被告宝珠会の指示とおりに活動するダミー団体であると疑われた。

ⅴ NPO法人自然を守る会,宝珠製作所の関係者に泰道の関係者が多く含まれている。

  ②「手引きをした」と判断されること

泉田議員が,手引きをしたと合理的に評価される根拠は以下のとおりである。

ⅰ 泉田議員は,山崎とともに,NPO法人自然を守る会が設立される以前から,西原村灰床地区において疎外開のために,土地を買収する交渉を担っていた。

ⅱ 泉田議員は,NPO法人自然を守る会の西原村在住の唯一の関係者である。

ⅲ NPO法人自然を守る会には,活動実績も活動実体もない。

ⅳ 泉田議員は,平成25年1月10日,自然を守る会の大野原野の売却申し入れを山崎と行い,西原村に対して,売却に応じるように説得するとともに,以降も一貫して売却を積極的に推進しようとした。

ⅴ 泉田議員は,平成24年6月12日付NPO法人自然を守る会の伐採届出書において伐採者・造林者として名を連ね,開の土地を管理する立場にあったところ,間伐を届け出ていた山林が違法に皆伐され,農業用水路に流出土砂が大量に堆積する被害が発生した。

ⅵ 泉田議員の上記各行為は,村の利益よりも,開ないしは原告宝珠会の利益を優先し,それが村議会議員として立場と相容れないものと評価されてされて然るべきである。

(2)宝珠会

   宝珠会が違法な活動を継続していることについては、泰道及び宝珠会が過去に判決により違法認定を受けたことから、事実上の推定があるとされ、原告に違法行為のどの点をいつどのように改善したのか明らかにするように裁判所に求められているが、どうしたことか原告自らが訴状で主張した「違法行為の是正」の具体的内容を明らかにしていない。

   宝珠会が、「原告は現在、当該判決を受けてその活動を全面的に見直し」、どのように組織や活動を改善したのか、大変興味深いところである。

 

5 宝珠会の対応と名誉毀損訴訟の行方

 宝珠会は、飽くまでもNPO法人自然を守る会や開の活動が宝珠会とは無関係であるとの立場をとっている。ジャーナリストからの「宝珠会と自然を守る会の開発行為とどのような関係があるのか、自然を守る会、自然を守る会の役員及び開氏に対して、貴法人が西原村での開発のために金銭的な支援や人的支援をしたことがあるか」、との質問に対して、「当法人は、西原村にも、NPO法人自然を守る会の活動について、コメントする立場にありません。」と答えた。また、宝珠会の開祖である開が推進している「自然を守る会の開発が地元住民の反対を受けていることに関して、貴法人(宝珠会)が開氏に対して、指導や申し入れをすべきではないか」との質問に対しては、「当法人は、当法人とは全く別の法人であるNPO法人自然を守る会の活動について、コメントする立場にありません。」と答えている(インターネットサイト:やや日刊カルト新聞)。

 しかし、宝珠会の主張とは裏腹に、上記二つの名誉毀損訴訟において、宝珠会が正体を隠して、ダミーのNPO法人を利用して、密かに進出しようとしたか否かが明らかになりそうである。本件名誉毀損訴訟で宝珠会とNPO法人自然を守る会の関係が焦点となっており、仮に宝珠会の秘密裏の進出が明らかになれば、社会的な非難は免れない。

 今後の訴訟の行方が住民の反対運動にも影響を与えそうである。

以上

<参考サイト>

・西原村進出疑惑に関する記事 やや日刊カルト新聞

 http://dailycult.blogspot.jp/2014/04/npo_30.html

・西原村での開発の経緯 広報西原12月号

 http://www.vill.nishihara.kumamoto.jp/library/images/kouhoushi/2013.12.pdf