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消費者法ニュース102号211頁 寶珠宗寶珠会(旧泰道)の進出疑惑と名誉毀損訴訟(後半)

消費者法ニュース102号211頁

 消費者法ニュース100号の後編。威嚇目的訴訟(SLAPP訴訟:Strategic Lawsuit Against Pubklic Participation)と思しき事例です。

名誉毀損訴訟の濫用は最近、注目を浴びる、社会問題となっており、問題的の論考です。

寳珠宗寳珠会(旧泰道)の進出疑惑と名誉毀損訴訟(後半)

(熊本地方裁判所(ワ)1050号、1162号損害賠償請求事件)

 

1 初めに

 本誌、100号にて報告した寶珠宗寶珠会(以下「宝珠会」という。)の進出疑惑に伴う名誉毀損訴訟において、被告らの請求をいずれも棄却する判決が出た(熊本地方裁判所平成26年11月20日判決、確定)。

2 事案の概要 

  事案の概要は前回の記事のとおりであり、詳細を割愛し、簡単に要約すると、NPO法人自然を守る会が計画した進出は宝珠会の秘密裏の進出ではないかという疑惑がある中、この疑惑を伝えていた住民女性を、宝珠会と泉田洋一氏(元西原村村議会議員、以下「泉田議員」という。)が名誉毀損で訴えたものである。

 以下、宝珠会の訴えを第1事件、泉田議員の訴えを第2事件として、訴えの内容を説明する.

 第1事件 原告宝珠会が、被告が発行し同村住民らに配布しているミニコミ誌に、原告宝珠会は泰道の違法活動を引き継いだ問題ある宗教団体である旨の事実を摘示し、原告宝珠会の名誉を毀損したとして、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた事件。

 第2事件 原告泉田議員が被告に対し、上記ミニコミ誌に原告泉田がカルト教団の西原村進出を手引きした旨の事実を摘示するなどして、泉田議員の名誉を毀損したとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた事件。

3 訴訟の争点

    第2事件(原告泉田議員)については、前回の記事に報告しているとおりである。今回は、原告宝珠会の訴えである第1事件の審理について、報告する。

(1)真実性及び真実と信ずることの相当性

 第1事件(原告宝珠会)においては、摘示された事実が真実であることまたは真実であると信ずることにつき相当の理由があったことを抗弁として主張していたところ、宝珠会が違法な活動を継続しているか、が焦点となった。

 この点については、泰道及び宝珠会が過去の判決により違法認定を受けていることから、活動の継続性に事実上の推定があるとして、宝珠会が違法行為をいつ、どのような形で是正したのか具体的に釈明することが求められた。

(2)宝珠会の主張

 これに関し、宝珠会は、抽象的な釈明に終始していたが、最終的に以下のような主張をした。

 平成14年に違法な活動を認定し損害賠償を命ずる判決が言い渡されて以降、違法とされた勧誘システムを停止し、手かざしで病気が治る等の断定的な判断の提供を行っていない。宝珠会は宗教的儀式ないし行事のみ行っており、専門講座の受講を求めるなどの泰道が行っていた宗教活動以外の儀式は行っていない。信者において具体的な治療を求める場合は、専門家である医師への相談を推奨している。

(3)被告の主張

  被告は、以下のとおりの主張をして、真実性及び相当性を争った。

ⅰ 宝珠会は,泰道の後継団体と一連の裁判で認定されている。

ⅱ 泰道の活動の本質は現実的な健康回復の利益を約束する点にあるところ、宝珠会はこの点において変化がない

ⅲ 原告宝珠会の実態として健康回復の利益を約束する勧誘に関する相談が消費生活センターに継続的に寄せられている

ⅳ 健康回復の利益を約束する手法は,原告宝珠会も泰道も生命の作用による治癒・改善の体験談を提示するという方法であり,その方法にも変わりがない

ⅴ 違法行為の一部と認定された泰道時代の過去の開の著書を原告宝珠会が未だに会員に勧めており、そこには「良くなります」という断定的判断の提供がある

Ⅵ 原告宝珠会が、一連の判決を受けて、謝罪や反省を表明したり、違法行為を是正した外形的事実がない 

4 判決

 裁判所は、真実性に言及するまでもなく、以下のように判断を示して原告らの請求をいずれも棄却した。

(1)第1事件(原告宝珠会)

   「平成13年から平成15年にかけて福岡地方裁判所等において、泰道が会員らから多額の金員を違法に集めていたこと、原告宝珠会は泰道が平成9年3月31日に解散した後にその活動を引き継いだことを認定した上で、原告宝珠会や開らに対して不法行為に基づく損害賠償を命ずる判決が言い渡されたこと、被告は、上記判決を読んで、原告宝珠会は泰道の違法な活動を引き継いでいる問題のある宗教団体であると考え、本件記事を作成したことが認められる。」

   「そうすると、原告宝珠会の現在のホームページには、「専門家である医師への相談は必ず行いましょう」などと宗教活動のみにより健康を回復できるという断定的な記載はされていないことを考慮しても、少なくとも被告が本件記事に摘示した事実を真実と信じたことについて相当性があることは明らかであるから、故意又は過失が阻却され,その余の点について判断するまでもなく、被告は本件記事」「について不法行為責任を負わない」。

(2)第2事件(原告泉田議員)

   「自然を守る会は開発行為の資金的な裏付けとして開名義の残高証明書を提出しており(西原村に対する調査嘱託の結果)、開と自然を守る会は密接な関連性があることは明らかである」。

   「そうすると、原告泉田が、自然を守る会と原告宝珠会は、人的、経済的に極めて密接な関係があることが推認され、これを覆すに足る証拠はないから、自然を守る会の西原村進出は原告宝珠会の西原村進出と実質的に同視することができる。」

   「以上によれば、本件記事3に摘示された原告泉田が原告宝珠会の西原村進出に協力したという事実については、真実性が認められる」。

   「そして、原告宝珠会は泰道の違法な活動を引き継いでいる問題のある宗教団体という事実については、上記説示のとおり少なくとも真実と信ずる相当な理由があるから、本件記事3において摘示された「原告泉田は違法な活動を行っている原告宝珠会の西原村進出に協力した」という事実は、主要部分において真実であるか、真実であると信ずる相当な理由があるということができる」。

   「原告泉田が村会議員として責任をとるべきでありリコールの対象になる旨の意見ないし論評は、社会的相当性を逸脱したものとは言えず、違法性を欠くというのが相当である」。

 

5 確定的となる宝珠会の進出と広がる事件の展開

(1)20億円の資金提供の発覚

   本判決が指摘しているとおり、訴訟を通して、宝珠会からNPO法人自然を守る会への巨額の資金の流れが明らかとなり、NPO法人の進出が実質的には宝珠会の進出と同視できることが確認された。

   NPO法人自然を守る会は、土地売却を西原村に申し入れた際に、開個人名義の口座残高証明書を見せ、開発資金の裏付けを示していたのだが、この残高証明書に記載されている金20億4515万7452円の内金20億3515万7452円が、原告宝珠会から送金され、その後も更に20億円が開発資金の裏付けとなった開名義の口座に送金されていたことが確定した。

   宝珠会はNPO法人と宝珠会は別法人であって、無関係を主張していたが、上記事実が明らかとなっても、「当法人と開氏との間での金銭のやり取りについては、開氏の個人的な情報であり。当法人としてお答えすることはございません。また当法人は、開氏が開氏個人のお金を何に使うのか関知しておりません。」(やや日刊カルト新聞)と、開個人の財産であると述べるだけで、十分な説明をしていない。

   40億円もの巨額の資金を提供しながら、それが提供を受けた一個人の資産とはおかしな話で、結局原告宝珠会の秘密裏の進出が合理的に裏付けられる形となった。判決が、「自然を守る会の西原村進出は原告宝珠会の西原村進出と実質的に同視することができる」と断じたのは至極当然のことである。

   NPO法人ではなく宝珠会が進出しているのではないかという考えが、西原村の住民を不安に陥れ、反対運動をおこさせた原動力であるから、この疑惑がほぼ確定したという点は、住民にしてみれば大きな意味を持つこととなった。

(2)御船町への進出疑惑

   一方、宝珠会については西原村に隣接する御船町への進出疑惑が新たに報じられている。

   平成26年7月12日付新聞記事によると、開とおぼしき人物が西原村の隣町の熊本県御船町のゴルフ場を買収したことが報じられ、当地でも宝珠会の進出ではないかと住民からの不安の声が上がっている。

(3)西原村への名誉毀損訴訟の提起

   さらに、今回の判決で宝珠会と「実質的に同一視できる」とされたNPO法人自然を守る会が、今度は西原村を名誉毀損を訴える事態となっている(熊本地方裁判所平成26年(ワ)第734号)。

   このことから、宝珠会ないしNPO法人自然を守る会の西原村への進出が今後も続くのではないかという不安を生じさせる事態となっている。

5 まとめ

  宗教団体の進出に伴う地域住民との摩擦やこれに伴う名誉毀損訴訟の提起は宗教トラブルの典型的な側面である(「宗教トラブルはいま」132~137頁日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編)。

  NPO法人自然を守る会の進出が宝珠会の進出であり、泉田議員がこれに協力していたと合理的に判断できるにもかかわらず、宝珠会と泉田議員がNPO法人と宝珠会との関連性を否定して訴訟を提起したことからすると、本件訴訟は不当訴訟と評価されるであろう。名誉毀損訴訟の多発は、やはり宗教トラブルの典型的な側面と捉えられているが(「宗教トラブルはいま」136頁)、その目的とするところは名誉毀損による損害の補償というよりは、進出に反対する住民への威嚇と考えられ、名誉毀損訴訟が威嚇目的に利用され、実際に一定の効果を上げていると考えられる。

  このように、名誉毀損訴訟の提起が現実に言論の自由に対する大きな脅威となっている点は重大な問題であり、名誉毀損訴訟が言論の自由を容易に萎縮させている現状はもう一度見直されるべきである。

  今回の宝珠会の進出疑惑を村民にいち早く伝えたのは、大手全国紙でも有力地方紙でもなく、被告とされた西原住民である。西原村への進出疑惑を正面から伝えた大手メディアは、私の知る限り皆無である。これは、地方のニュースが全般的に報道されない傾向にあるだけではなく、宗教団体トラブルの典型に名誉毀損訴訟の多発が挙げられているように、大手の報道機関が報道することに及び腰になっていることが原因であるように考えられる。理由がどうあれ、このような地方の宗教トラブルを報道機関が取り上げない傾向にあることは事実と考えられるから、今後もこのような場合に名誉毀損訴訟の対象となるのは、情報を発信する強い動機を持つ地域住民となるのである。しかし、組織力と財力に優れた宗教団体から訴訟を提起されるという事態は、一般住民からすれば経済的・心理的に大きな負担であり、やはり反対運動・言論活動に対する萎縮効果を生んでいる。宗教トラブルの際、所謂名誉毀損訴訟が恫喝訴訟・威嚇訴訟(SLAPP:公の場での発言や政府・自治体などの対応を求めて行動を起こした権力を持たない比較弱者・一個人に対して、大企業や政府などの優越者が恫喝・発言封じなどの威圧的、恫喝的あるいは報復的な目的で起こす訴訟を指す、参考文献:法律のひろば1997年4月~5月号「アメリカにおけるSLAPP訴訟の動向」。)の一形態となってしまっているように感じる。これは、名誉毀損が社会的評価を低下させるような事実の流布があれば基本的に提訴が可能であり、不法行為の主張としてハードルが低いからだと考えられる。

  今回、被告住民が宝珠会の進出疑惑を伝えなければ、村民が反対の意思を表示し、民意を示す機会は与えられなかったかもしれないし、その結果NPO法人の開発が認められていたかもしれない。被告住民の報道は大変重要な意義を持っており、これが民主主義を支える本来の報道のあるべき姿であろう。そうすると、このような本来民主主義の維持に不可欠な役割を果たす行為に対して、訴訟という形で圧力を容易にかけることが出来る現状は果たして正しいのか、という疑問が生じてくるのである。

  日本における名誉毀損法理は、従来新聞・テレビ・週刊誌といったマスメディアとの関係で理論が構築・形成されていったと思われる。しかし、インターネット等の技術の発展により、一個人が情報を発信することが容易となり、現実に大きな役割を担うようになった時代においても、その一個人の表現行為に従来のマスメディア同様の基準が適用され、その結果言論を過度に萎縮させるのであれば、そのことに理不尽さを感じざるを得ない。米国の「現実的悪意の法理」を適用したり、あるいは表現者の側と表現の対象との力関係を考慮し、名誉毀損名目での不当訴訟を抑制するような仕組みの導入も視野に入れられるべきではないだろうかと考えさせられる。

  将来はともかく、宗教トラブルにおいては地域住民が今後も大きな負担を強いられる構造となっているのは現実である。このことは宗教団体の進出の例に限らないが、進出する側が正体を隠し、巧妙に偽装するような場合であれば、疑惑を指摘する住民側の困難はなおさら増すことになることを示している。そういう意味で本件は事例として非常に興味深いものである。

以上

<参考サイト>

・西原村進出疑惑に関する記事 やや日刊カルト新聞 

 http://dailycult.blogspot.jp/2014/07/40_25.html

 http://dailycult.blogspot.jp/2014/07/40.html